笑えない『わたモテ』が放つ危険な笑い

アニメから入って『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い』の漫画を読みはじめました。Kindle版を買っています。先日5巻が出たので早速読んでみましたが、主人公の異常さが際立つ内容になっていました。

この作品を読み始めた時は「ひとりぼっちなら俺が彼氏になってやんよ。フヒヒ」と思っていましたが、読み進めるうちに心底「こんな女とは関わりたくない」になりました。アニメはキャラクターのデザインが可愛くなっており、アレンジも上手いためコミカルに感じることもありますが、原作だとそういったイメージは早々に消えてしまいます。

とにかく笑える部分がありません。作品が面白くないわけではないのですが、笑えません。理感動や笑いのポイントは追体験や意外性などにありますが、この作品においてそういった類の面白さを感じることは稀です。主人公のとるマイナスの行動は、読者の体験を超え、悪い予感を的中させます。漫画のキャラクターがドジを踏んだりひどい目に遭う場合は、それ自体がギャグであったり、後で埋め合わせの笑いが提供される場合がありますが、この漫画にそれはありません。主人公に気を遣うキャラクターが時々いて、読者がそれを救いに感じることがあっても、主人公はその救いを受け入れきれていません。他人を受け入れられないので、一見他人と交流しているような描写があっても主人公はひとりぼっちです。『ドジだけど頑張り屋』とか『落ちこぼれだけど努力家』のような愛される要素もありません。この漫画の底辺の描写は這い上がるための設定ではなく、延々と主人公のみじめさを読者に見せつける現実です。笑えない理由は、主人公に感じる不憫さです。5巻ではこれが顕著になっていました。

主人公が小学生の頃の描写がまだないので、彼女がずっとひとりだったのか定かではありませんが、中学の班作りの様子から、元々友達がいなかった可能性があります。もしくは、小学生の頃の友達と中学で別れてしまい、中学校デビューにも失敗していたのかもしれません。まともに話せるのは家族と、自分より下に見ていた女友達だけです。この状況は子供の発達でいうと幼稚園に入ったくらいです。最初は喪女のみじめな様子を笑う作品かと思っていた人でも、主人公に対して危機感を感じるはずです。ただの漫画ではないと。この主人公、真面目にカウンセリングを受けた方がいいのではないかと。この作品に面白さを感じる部分といえば、そういった危ない雰囲気が漫画やアニメになっている現象そのものです。

そんな最悪な読後感でも感心するのは、主人公が徹底的に惨めに描かれていることです。ここまで継続できるのは凄い。原作者が後書きしていた学生時代の恨みが原動力になっているのでしょうか。編集者の介入がなければ、更に悲惨な内容になっていた可能性があります。この惨めさを貫徹していただきたいものですが、救いを受け入れたもこっちが、読者も救ってくれることを願います。

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